海になった学校。廃校水族館で出会った不思議な放課後

チャイムの音が消えた校舎で、今度は波音が響いていた。教室には水槽、理科室には標本、そしてプールにはウミガメ。日常と海の世界が交わる、ちょっと不思議な学校へ。
あさみん 2026.10.05
誰でも

海を目指して走っていたはずなのに、目の前に現れたのは、どこにでもありそうな古い学校だった。

校庭があり、校舎があり、玄関には下駄箱が並んでいる。どう見ても小学校。でも、一歩中へ入った瞬間、その場所が普通ではないことに気づいた。

教室には魚が泳ぎ、手洗い場には海の生き物が暮らし、理科室には謎めいた標本が並んでいる。そして、最後に待っているのは、プールを泳ぐウミガメ。

ここは高知県室戸市にある「むろと廃校水族館」。子どもたちの声が消えた学校は、いつの間にか海の生き物たちが暮らす、不思議な水族館になっていた。

この学校の前身は、2006年に廃校となった椎名小学校。最後の年に通っていた児童は、なんと3人だったという。これだけ広い校舎を3人で使っていたと思うと、なんとも贅沢なような、少し寂しいような気持ちになる。

黒板には、かつて授業をしていた子どもたちの気配が残り、廊下を歩けば、今にもチャイムが鳴りそうな雰囲気。廃校になった学校って、どうしてこんなにドキドキするんだろう。誰もいない教室を覗くときの、あの少し悪いことをしているような感覚。大人になってから学校へ忍び込んだような、不思議な緊張感がある。でも、ここは忍び込んでいるわけではない。堂々と入れる、海の学校なのだ。

むろと廃校水族館の始まりは、室戸の海だった。2001年から室戸の定置網に入るウミガメの調査を続けていた日本ウミガメ協議会。その調査の中で集まった珍しい生き物や標本を、もっと多くの人に見てもらおうと誕生したのが、この水族館だった。だからなのか、この場所には普通の水族館にはない自由さがある。

掲示板には、イカスミで書かれた習字。手洗い場はナマコやヒトデが泳ぐタッチプールに変身。本来なら使われなくなった場所が、そのまま新しい役割を与えられている。「古いから壊す」ではなく、「残っているものを面白く使う」。その発想が、この学校を特別な場所にしている。

教室だった場所を進んでいくと、突然景色が変わる。壁が取り払われた空間には、大きな水槽が並んでいた。さっきまで学校だった場所が、いつの間にか海の中になっている。中央の大きな水槽では、堂々とウミガメが泳いでいる。その姿を眺めていると、ここが元々教室だったことを忘れてしまいそうになる。壁際には、いろいろな種類のカニたち。さらに大きな水槽では、エイやサメが水音を立てながら泳いでいる。派手な演出はない。でも、目の前の生き物との距離が近い。

水槽が曇ったら拭いてください、と置かれたタオル。来館者まで飼育員さんの仲間になったような、そんな親近感がある。

校舎の探検はまだ終わらない。3階の踊り場には、集められた剥製たちがひっそり並んでいる。その中には、まさか高知で出会うとは思わなかったハブとマングースの姿も。

廊下には珍しい魚の標本がずらり。理科準備室には骨や標本が並び、理科室の実験台には大量の資料が置かれている。きれいに整えられた博物館とは違う。少し雑然としていて、何が出てくるかわからない。こういう場所は、大人になってもワクワクする。

そして、この学校水族館最大の見どころへ。それは、学校ならではの場所、プール。恐る恐る覗き込むと、そこにはウミガメやサメが泳いでいた。学校のプールに、海の生き物がいる。現実なのに、まるでB級映画のワンシーンだ。

「廃校を水族館にする」という発想だからこそ生まれた、ここでしか見ることのできない光景だ。

子どもたちの声が響いていた校舎は、長い眠りにつくことなく、今度は海の生き物たちを迎える場所になった。黒板も、廊下も、理科室も、プールも。昔の記憶を残したまま、新しい時間を刻んでいる。

むろと廃校水族館は、ただ魚を見る場所ではない。過去と現在、学校と海、日常と非日常が交わる、不思議な境界線のような場所だった。

室戸を訪れたら、ぜひ海だけではなく、この「海になった学校」に寄り道してほしい。きっとそこには、少しだけ時間がずれたような、不思議な放課後が待っている。

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