歩けば土管、見上げれば巨大猫。常滑は何かがおかしい
全国初だろうか?公営ギャンブルのマスコットキャラクターが、市のキャラクターに昇格した街、それが今回やってきた常滑市である。

その名も「トコタン」。常滑の「トコ」と、モンキーターン、3連単の「タン」を組み合わせた名前だそうで、市のキャラクターになった今も競艇色をしっかり残しているところがいい。公営ギャンブルのマスコットから市の顔へ……なかなかの出世である。

そんな常滑は、言わずと知れた窯業の街。全国にある窯業地のなかでも歴史が古く、規模も大きいうえ、招き猫の生産量は全国一。常滑駅の周辺には今でも多くの作家や職人が暮らし、古い街並みもまとまって残っている。
しかも、ただ古い町並みを保存しているだけではない。散歩コースが整備されているので、よそ者がカメラを持って細い路地をうろうろしていても怪しまれにくく、週末ともなれば観光客が歩き、新しいカフェやギャラリーも増えている。古いものを残しながら、新しいものも受け入れて街がちゃんと生きている。こういう街づくりって、理想的じゃないかと思う。

常滑駅を出ると、まず現れるのが「とこなめ招き猫通り」。壁には常滑の陶芸作家39人が手がけた39体の「御利益陶製招き猫」が埋め込まれていて、それぞれ「健康長寿」「安産」「旅行安全」などのご利益が設定され、願いを背負わされている。


しかも、ただ猫を並べただけではない。願い事に合わせて猫の姿まで違っていて、ツルツルのお肌にガラスのような瞳をした猫は「美人祈願」。一方、妙に艶っぽい雰囲気を醸し出している猫には「夫婦円満」の文字が。さらに、めちゃくちゃいい表情で「家運隆昌」を訴えてくる猫もいて、39匹もいると招き猫も個性豊か。

散歩道に入ると、今度は土管や焼酎瓶が街のいたるところに現れる。これらは明治時代以降につくられた常滑焼で、規格に合わなかったり傷がついたりして商品にならなかったものを、塀や擁壁、土台などに再利用したものだという。「売れないなら捨てる」ではなく、「これ、壁に使えるんじゃない?」と街中に埋め込んでしまい再利用。常滑のリサイクル精神は年季が入っている。

なかでも有名なのが「土管坂」。道の両側には土管と焼酎瓶がびっしり並び、足元には「ケサワ」と呼ばれる陶器の廃材が敷き詰められている。

ところが、観光客を楽しませたい!もっともっと!というサービス精神がどんどんエスカレートしたのか、土管坂にたどり着く前から土管の壁があちこちに登場。もはや「土管坂はどこだ?」と探している時点で、すでに土管坂の雰囲気を味わっているのである。

そして、ものすごい量の焼酎瓶が並んだ場所もある。ここまでくると、集合体恐怖症じゃなくても「うわっ」となるほどの迫力だ。

さらに歩いていると、昔の浴槽のような形をした不思議な容器まで登場する。これは太平洋戦争中、ロケット燃料を生産するため耐酸容器が必要になり、軍の依頼を受けて常滑でつくられた特殊容器だという。そんな歴史的なものが、街角にしれっと大量に残っているのだから面白い。

土管の穴を利用して植木鉢にした路上園芸もあり、これがまた妙におしゃれ。迷路のような細い路地を歩けば、招き猫だけでなく本物の猫まで散歩している。招き猫の街で本物の猫に出会うと、実写化されたような特別感がある。

かつて最盛期には400本以上の煙突が立ち並び、街中が黒い煙で霞んでいたという。400本とはもう「煙突がある街」じゃなく「煙突の中に街がある」レベルである。今はその数もずいぶん減っているが、残された煙突を眺めていると、当時はこのあたり一帯が煙に包まれ、焼きものの街というより、巨大な工場がそのまま街になったような景色だったんだろうなと思う。

さて、常滑で一番のフォトジェニックといえば、忘れちゃいけないのがココ。私のようなマニアックな風景好きの界隈では有名であった巨大ネコ。最近では堂々と常滑の広告ポスターでメインを張るまでになっている。どこにいるのかと歩いていると、ふと頭上から視線を感じる。
「……ん?」
見上げると――いた!!

愛称は「とこなめ見守り猫 とこにゃん」。高さ3.8m、幅6.3mもある巨大招き猫が、壁の上から街を見下ろしている。虚空を見つめる漆黒の目で、まちの事件事故から、軽犯罪・ハラスメントまで監視。
さてこの猫、裏側はどうなっているのだろう?正面からは、まさに巨大招き猫。これだけ大きいのだから、きっと後頭部もちゃんと猫になっているのだろう。
そう思って、ぐるっと回ってみる。
そして裏側に回った瞬間――

真っ白いパネルなんかい!
表では街の治安を一身に背負っているのに、裏側はびっくりするほど無防備。この表と裏の潔いまでの落差が、なんともシュールでおもしろい。

ちなみに、とこにゃんは最初に見た「とこなめ招き猫通り」の真上にいるのだが、散歩道から少し寄り道しないとたどり着けない場所にあるため、意外と見逃されがちである。常滑へ来たら、ぜひ頭上を見上げて、この巨大猫に突然監視される体験をしてみてほしい。そして余裕があれば裏側にも回ってみよう。そこには、さっきまで街の治安を一身に背負っていた猫とは思えないほど、やる気のない白い壁が待っている。常滑へ行ったら、陶芸体験をする前に、まずは巨大な猫を目に焼き付けておこう。

土管、焼酎瓶、煙突、招き猫。
歩けば歩くほど、焼きものの歴史が現れ、そこへ街の遊び心が顔を出す。古いものを大切にしながら、それを観光客が楽しめる景色に変えてしまう常滑。こういう街は歩いていて飽きない。「焼きものの街」と聞いて想像するより、ずっと変で、ずっと面白い。
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