境内を歩くたび、予想が裏切られる。耕三寺という異空間

瀬戸内海に浮かぶ生口島にある耕三寺は、国宝建築を手本にした豪華絢爛な伽藍、圧巻の地獄巡り、そして真っ白な現代アートが一つの境内に共存する唯一無二の寺院。歩くたびに予想を裏切られる、驚きに満ちた異世界を訪ねた。
あさみん 2026.09.07
誰でも

瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)に、「西の日光」と呼ばれる寺がある。その名は耕三寺。

鋼管の溶接技術者として成功を収めた耕三寺耕三和上が、亡き母を弔うために私財を投じて建立した寺院である。1936年に着工し、完成まで30年以上。その壮大なスケールは、境内へ一歩足を踏み入れた瞬間から伝わってくる。……いや、正確には一歩踏み入れる前からである。

駐車場に車を停めると、目の前に現れたのは、お寺ではなく城のような建物。

「あれ?ここであってる!?私、お寺に来たんだよね?」

期待を胸に入口へ向かうと、豪華絢爛な山門が姿を現した。「派手」という一言では片付けられない。まるで全国の名建築の"いいところ"だけを集め、惜しみなく盛り付けたような世界が広がっていた。

京都宇治平等院鳳凰堂

京都宇治平等院鳳凰堂

山門は京都御所・紫宸殿、中門は奈良・法隆寺西院伽藍を手本に建立されたもの。さらに境内には、平等院鳳凰堂、日光東照宮、四天王寺、室生寺など、日本各地の名建築を参考にした建物が次々と現れる。まるで「国宝建築テーマパーク」である。

奈良・室生寺の五重塔

奈良・室生寺の五重塔

しかも、その完成度は単なるレプリカという言葉では片付けられない。境内に建つ15棟は国の登録有形文化財にも指定されている。本家を参考にして造られた建物が、それ自体文化財になってしまったのである。

日光東照宮の陽明門を模した孝養門

日光東照宮の陽明門を模した孝養門

特に圧倒されたのが、日光東照宮の陽明門を模した孝養門だった。文部省から実測図を取り寄せ、完成まで10年。その本気度にくらくらする。

残念ながら私は本物の陽明門をまだ見たことがない。そのため「そっくり!」とは言えないのだが、目の前の門を見れば十分だった。

豪華。重厚。そして妙に迫力がある。

本家を知らなくとも、素人が見ても、「これはすごい」と感じさせるだけの力があった。

だが、耕三寺はまだまだこれから。

境内の奥にある「千仏洞地獄峡」。

「地獄」の二文字を見つけた瞬間、思わず頬がゆるんだ。普通のお寺では味わえないものが待っていそうだ。そんな期待を胸に、迷うことなく洞窟の中へ足を踏み入れた。

全長約350メートルの人工洞窟には、地獄の世界が再現されている。鬼、閻魔大王、責め苦を受ける亡者たち。普通なら恐怖を演出する空間なのだろう。

ところがよく見ると、鬼たちの表情が妙にゆるい。一体一体の顔に愛嬌があり、怖いどころか思わず笑ってしまう。しかもレリーフは立体的につくられていて、細かな造形まで実によくできている。私は完全に足が止まった。鬼を眺めては写真を撮り、また立ち止まる。その間にも、ほかの観光客は次々と私を追い抜いていく。

「え?みんな、もっとちゃんと見なくていいの?」

そして洞窟の終盤。目の前に広がった光景には、さすがに言葉を失った。

巨大な縦穴空間の壁という壁を埋め尽くす無数の仏像。どこへ目を向けても仏像しか見えない。その圧倒的な物量に、ただ立ち尽くすしかなかった。仏像に包囲された世界である。入口で洞窟は「10分ほどで見学できます」と案内されたが、私は結局30分以上も出られなかった。

そして最後に待ち受けるのが、耕三寺最大のサプライズである、未来心の丘。エレベーターを降りた瞬間、目の前に広がるのは真っ白な大理石の庭園だった。

未来心の丘

未来心の丘

ついさっきまで国宝建築を巡り、地獄を歩いていたというのに、次の瞬間には真っ白な大理石の庭園が現れる。この寺は、こちらが「次はこうだろう」と予想するたびに、軽々とその上をいってしまう。

この庭園は、広島出身の彫刻家・杭谷一東氏が12年をかけて制作した環境彫刻庭園で、一見すると現代アートだが、実は仏教の世界観を表現しているという。

伝統建築、地獄巡り、そして現代アート。普通ならまったく結びつかないものが、この寺では不思議なくらい自然につながっている。

境内のすべてを見終えた頃には、2時間半も滞在していた。

国宝建築への執念ともいえる情熱。じっくり見たくなる地獄巡り。そして、瀬戸内海を望む真っ白なアート空間。次は何が飛び出すのだろう。境内を歩くたびに予想を裏切られ、そのたびに心が躍る。耕三寺は、最後まで驚かされる寺だった。

生口島を訪れるなら、この寺だけは時間に追われず、心ゆくまで歩いてみてほしい。耕三寺から帰る頃には、「お寺を見てきた」というより、一つの壮大な世界を旅してきたような気分になっているだろう。

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