夫婦ふたりが独学で作った巨大マンション 沢田マンションへ
沢田マンションをご存知だろうか。
珍しい場所や建築が好きなら、一度は名前を聞いたことがあるはずだ。高知にある有名珍建築、沢田マンション。検索すれば写真も記事も山ほど出てくる。だが、やはり実物は自分の目で見てみたい。
沢田マンションとは「素人の夫婦が独学と自力で建てた巨大マンション」である。1971年、「ふたりだけでどこまでやれるか試したい」という思いから建設が始まり、その後も増築に増築を重ねた結果、独特すぎる姿となった。その外観から「日本の九龍城」とも呼ばれている。私は勝手に、山あいの秘境に建っているものだと思っていた。写真の沢田マンションはいつも背後に山を従え、巨大な要塞のような雰囲気をまとっていたからだ。ところが、高知市中心部から車を走らせること数分。大型店や飲食店が並ぶごく普通の幹線道路で、カーナビが突然こう告げた。
「目的地に到着しました」
えっ、もう?
周囲を見渡しても、回転寿司、スーパー、銀行、家電量販店。どう見ても見慣れた生活圏だ。伝説の珍建築に会いに来たつもりが、気が付けばショッピングエリアの真ん中に立っていた。そして車を降りた瞬間、私は口を開けたまま固まった。
なんだこれは!
写真で見てもそう思ったが、実物を見てもやはり同じ感想だった。いや、むしろ現地に来たことで謎は増えている。

圧倒的な存在感!沢田マンション
白い巨大な建物からはベランダが飛び出し、階段が交差し、通路がねじれ、スロープが巻き付き、隙間から植物が生えている。右を見れば新たな発見。左を見ればさらに意味不明な構造物。子どもが画用紙いっぱいに描いた空想の生き物が、そのままコンクリートになって現実世界へ飛び出してきたようだった。
「あの部屋の入口はどこだ?」
「あの通路はどこへ続く?」
「車はどうやってあそこへ上がるのだろうか?」
見れば見るほど疑問が増えていく。
興奮を抑えながら大家さんにあいさつし、静かに敷地へ入る。入口には野菜の無人販売所があり、その隣には年代物の発動機が並んでいる。すでに普通のマンションではない。

入り口から5階までつながる驚異のスロープ。
そして沢田マンション最大の見どころが、建物に巻き付く巨大スロープだ。
車や自転車に乗ったまま2階、3階へ。
さらに建物の裏側へ回り込み、もっと上へ。
立体駐車場なのかと思うが、ここはマンションである。
スロープの下には地下へ続く暗い穴が口を開け、脇には秘密基地のような階段まで現れる。ゲームだったら絶対に隠しアイテムが落ちているだろう。

沢田マンションの内部は、坂あり階段ありカーブありの、まさに迷宮。
住居スペースへ入ると、さらに混乱した。白い通路は複雑に枝分かれし、坂あり階段ありカーブあり。どこへ行けばどこへ着くのか全然わからない。気付けば迷子だ。だが、それがたまらなく楽しい。角を曲がるたびに景色が変わる。コインランドリーが現れたかと思えば店舗があり、その先は行き止まり。来た道を戻っているはずなのに、なぜか初めて見る場所に出る。私はいつの間にか忍び足になり、人様の暮らしを邪魔しないよう周囲をうかがいながら歩いていた。

自転車でスロープを下ってそのまま買い物へ!こんな光景見たことない。
さらに上へ進むと、玄関先には自転車や車が並び、普通の生活風景が広がる一方で、スロープ脇には果物が実り、花が咲き、家庭菜園まで作られている。そして4階まで上がると景色は一変。そこには池があり、滝が流れていた。さらに上を見れば植物が生い茂り、屋上には畑まで広がっている。ここまで見てきた「生活のある風景」とはまた違う、楽園のような雰囲気に驚いた。

池があり滝が流れる楽園のような4階
沢田マンションを歩いていると、自分の中の「こうあるべき」が次々と崩れていく。
マンションとはこういうもの。
通路とはこういうもの。
屋上とはこう使うもの。
そんな常識を片っ端からひっくり返してくる。建物を見に来たはずなのに、気付けば人間の想像力そのものを見ていた。
「こんなの作ったら面白いじゃないか」
その発想を半世紀近く積み重ねた結果が、この巨大なコンクリートの迷宮なのだ。
増築を繰り返しながら生き物のように成長し、今も人々を受け入れ続ける沢田マンション。同じものを作ろうとしても、おそらく二度と作れない。高知へ行ったらぜひ訪ねてみてほしい。この興奮と感動は、写真では伝わらない。
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