白浜の海に浮かぶ城 前編

和歌山県白浜に、まるで王様が作らせたようなホテルがある。世界中の職人とお宝を集めた、異世界すぎるホテル川久に泊まってみた。
あさみん 2026.07.06
誰でも

和歌山県白浜に、とんでもないホテルがある。

青い空を背景に、海辺に突如として現れるオレンジ色の巨大な城。初めて見たとき、白浜の風景の中でそこだけ異世界だった。

「あれは何だ?」

観光地のホテルというより、わがままな王様が建てさせた宮殿に見える。

その名はホテル川久。

1991年、バブル絶頂期に誕生した夢の城だ。もともとは1949年創業の「旅館川久」。昭和天皇も宿泊したという、白浜を代表する純和風旅館だった。

しかし川久は、昔から少し様子がおかしかった。

お客様を喜ばせたい一心で私設雅楽団を持ち、連日雅楽を上演。猿芝居を開催し、日本初の生バンド付きカラオケまで始めてしまう。

そして創業40周年を迎えた1989年。

二代目社長とその妹は、バブルの勢いそのままに壮大な夢を掲げる。

「世界の数寄屋ホテルを作ろう」

数寄屋とは、茶の湯を楽しむために作られた究極の贅沢空間のこと。最高級の材料と最高の職人を集め、わかる人だけが気づくような贅沢をさりげなく忍ばせるのが粋。世界中から一流の職人と資材を集め、総工費400億円を投入し、1991年、ついにホテル川久が完成。その姿は西洋でもない。東洋でもない。日本でもない。どこの国にも属していない。ホテル川久という国だった。

開業当初は会員制。会員権はなんと2000万円から。当然ながら全室スイートルームである。庶民には縁のない、選ばれし者たちの社交場だった。

しかし開業からわずか5年足らずで経営破綻。もしここが南仏やモナコだったなら、世界中の富豪が集まったのかもしれない。しかしここは和歌山県白浜。あまりにも早すぎた夢だったのだろうか。

その後、1998年にカラカミ観光が買収。おかげで私たち一般人にも手が届く高級ホテルとなった。ただし多くの日程は2名以上限定。ごくわずかに1名宿泊できる日が現れるので、狙っている人は予約サイトをこまめにチェックしてほしい。

さて、いよいよ城へ近づいてみる。周囲には住宅や普通の建物が並んでいるのに、川久だけが別世界。風景の中に溶け込むどころか、「私はここにいるぞ」と主張している。歩くたびに高揚感が増していく。まるで王様に謁見しに行くような気分だ。

ちなみに、ホテル川久は宿泊しなくても見学できる。2020年には自ら「川久ミュージアム」を名乗り、館内のお宝を一般公開し始めた。

そんなことある?

普通は隠したがるようなコレクションを、「見て見て!」と見せてくれるのである。

まず目を奪われるのがオレンジ色の屋根。これは中国・紫禁城と同じ瑠璃瓦。しかも使われているのは、かつて皇帝以外が使用を許されなかった「老中黄」という特別な色だ。長い歴史の中で国外使用は唯一だという。その枚数、47万枚。

なんで許可が下りたの?

当時のオーナーは何者だったの?

疑問が追いつかない。

出窓には東洋の鳥と桜を描いた金箔装飾。美しい曲線を描くひさしは高知城にも使われた土佐漆喰仕上げで、60人の左官職人が24時間体制で一気に塗り上げたという。

さらに巨大なブロンズ製のうさぎ。世界的彫刻家バリー・フラナガンが川久のためだけに制作した特注品で、世界最大サイズだそうだ。

そして外壁。73種類、140万ピースのレンガが積み上げられている。数字だけ聞いても現実味がない。ここまでくると建築というより執念である。どこを見ても、素人でもわかる異常なこだわり。こればかりは写真では伝わらない。ぜひ現地で見上げてほしい。

そして意を決して館内へ足を踏み入れる。その瞬間だった。

うっひょー!!

思わず声が出る。

目の前に広がるのは、ホテル川久最大の見どころとも言われる金箔天井。広大な天井一面に貼られた金箔。その数、約19万枚。フランスの人間国宝が、一枚一枚手作業で貼り付けたという。

足元にはイタリア職人によるローマンモザイク。ピアノは特注のスタインウェイ。黄金色に輝く螺旋階段は空中に浮いているように見える。

巨大な柱はドイツまで技術を学びに行った左官職人たちが、「シュトックマルモ」という技法で大理石そっくりの模様を手作業で描いている。一本なんと一億円。それが二十四本。もう途中から計算するのをやめた。

田辺湾を望むラウンジにはベネチアンガラスのシャンデリア。壁にはフランス産ライムストーン。そして二世紀に制作されたというビザンチンモザイク画。歩くたびに世界中の宝物が現れる。まるで富と美への執念を、そのまま建物に閉じ込めたような空間だった。

しかし、本当に驚くべきものはまだ残っている。なぜこれほどの美術品が集められたのか。そして川久が隠し持つ「お宝」の数々とは何なのか。

後編では、さらに館内の奥へと進んでみたい。

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