八代の奇跡「ニュー白馬」で酔いしれる夜
今回私が這ってでも行ってほしいと断言するのは、工業都市として栄える熊本県第2の都市、八代市。その繁華街の一角に、絶滅危惧種どころか「生きた化石」として燦然と輝く、幻の聖地がある。
その名も、「キャバレーニュー白馬」。

遠くからでも闇夜を切り裂いて目に飛び込んでくるのは、「白馬」の巨大な文字。これを見た瞬間、私の興奮は沸点に到達。チカチカとド派手に点滅するネオンは、なんと電球がひとつも切れていない!古いネオン管なんてどこかしら歯抜けになっているのが世の常のこの時代に、完全無欠のフル点灯。ついに私の欲望が強すぎて、夢の世界を現実に召喚してしまったのではないかと、我が目を疑うほどの衝撃。これだけで、飯3杯はいけます。
底辺を自認する私にとって、キャバレーという響きは高嶺の花。入り口の妖艶な佇まいに一度は逡巡したものの、覚悟を決めていざ入店。

ガガーッと開いた扉の先では、スーツ姿のマダムがにこやかな笑顔でお出迎え。システムを聞くとなんと、80分飲み放題・歌い放題で、女性は1人4000円、2人以上なら1人3000円!お財布にも優しいこの大盤振る舞い、大人数でワイワイ攻め込むに限る。
床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、頭上には光り輝くシャンデリア。最近の“レトロ調”という名の薄っぺらい模造品とはワケが違う。手つかずの自然、これぞ昭和ゴージャス最後の秘境。
斜面に建てられたこの店は、入り口が2階で、フロアは階段を下りた1階。階段に並ぶ思い出の写真には、若き日の山本リンダ、美川憲一、そしてこの八代市出身の八代亜紀が初めてステージに立ったのが、まさにこのニュー白馬なのだそう。淡谷のり子、梅宮辰夫など、いまや伝説となったスターたちの若かりし頃の写真がズラリと並び、オーラが強すぎて目がくらむ。

そして、いよいよ客席フロアへと続く階段を下りると――。
「な、ななななんだこれはーーーっ!!!」

壁は全面鏡張り。床にはレインボーカラーのライト。照明が乱反射し、まるで万華鏡の中に迷い込んだかのような幻想的なつくりにうっとり。キャバレーの代名詞たるベロアのオリエンタル柄ソファには、「WHITE HORSE」の気品ある刺繍。天井が低く、ステージ側からは見えにくい秘密めいた客席は、大人のいかがわしいストーリーが今にも始まりそうな雰囲気。

そして、フロアの主役として君臨するのが巨大なシャンデリア。先代が大阪で買い付けた際、すでに別の買い手がいたのにもかかわらず、「倍の値段出すから売ってくれ!」と力技で手に入れた伝説の逸品だそう。昭和の男の豪快な血が通ったこの明かりは、改装を経ても今なお光り続けている。

なんとニュー白馬は、夜21時からは専属のバンドが完全生演奏をしてくれるという。信じられない!
手渡された歌本には、ちあきなおみ、美空ひばり……と昭和歌謡の重鎮が並び、知っている曲を記憶の引き出しから必死でひねり出す。
最初は人前で歌うなんて恥ずかしいと、もたもたしていた私たちも、いざ生バンドの演奏が始まれば楽しくなり、歌い終わり席に戻ればすぐさま次何を歌おうか?歌本をめくりながら歌えそうな曲を探すように。これは楽しすぎる!今すぐ殺してくれ~!

朝になると、昨夜あれほどギラギラと輝いていたネオンは消え、扉も固く閉ざされていた。
昨夜の賑わいが嘘だったみたいで、急に現実へ引き戻される。しかし、私はニュー白馬を見上げながら、妙に穏やかな気持ちだった。閉まった扉を見ても、「終わった場所」には見えない。むしろ今は、夜に備えて眠っているように見える。

ネオンが消える前にぜひ見てほしい。
階段を下りた瞬間の胸の高鳴り。
鏡の中で増殖する光。
天井から降り注ぐシャンデリアの輝き。
そして、生バンドを背に歌うあの気持ちよさ。
ニュー白馬は、過去を懐かしむ場所じゃない。今もちゃんと息をしている。だから会いに行ってほしい。この奇跡が、光り続けているうちに。
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